短編小説《あの世》白山幸之丞 作

(1)あの世

幸村さん こ〜むらさんっ!

ど〜なさったのっ! しっかりして…

しっか …り ……… 。。。

軟らかい編毛布に すっぽりと乗せられ

ぐ〜んっと 勢いよく 上に引き上げられた

その速さは すさましい限りだが なんとも

爽快であった。

先ほどまで あった 激痛のそれも いっこうに

思い出さない 奇妙な愉しさの重圧を感じながら

私は天空へ 猛スピードで 舞い上がっていた。

たしかきっと その暫く以前は 身体に大石が

乗っていたような ひどい苦しさがあった筈だが…

あの石は 何処に降ろしたのであろうか。

そしてあの 縛り上げられたような あの

息苦しさは もう死んでもイイとさえの

諦めだったはずまのだが あの縄は 誰が

外してくれたので あろうか。

身体が苦しい あの やるせない辛さの それ

をも忘れるほどの激痛、折々に襲ってきては

いたが… わたしはあれは、誰ぞが 私の身を

切っているのだと きっとそうだと確信してい

た気がする。

幸村陶太は な〜んにも見えなかった…

手首も足首も そして 胸のあたりも ガンドウで

(ノコギリで)誰かが 引き斬っているのでは

ないのか?… 痛い 痛かった…と 呟いていた。

私は なぜ こんな事を されなければいけないのか

私が いったい何をしたと 云うのか…

悲しかった ほとほと 哀しかった 痛かった…

私は 良いことなんか なんにもしなかった…

ただ 良いことをしている フリなら たくさん

したと想う… それで… 悪いことも ちょっと

したかったけれど、結局はな〜んにも出来ず…

残念だったな〜っと 陶太は 呟いた…。

わたしは何か 死んだほうがマシだと 思う

あの苦しさの…その前は、ものすごく身体が

痛くて…死ぬとか 生きるとかなど ど〜でも

よかった。いや、そんな暇も余裕もない激痛

であったのだ。

私は その激痛が 少し収まると… また 苦しみが

涌いてきて 死のうかな〜☆とかの 要らぬ元気が

涌き… ああ人間は 痛い間は 死なないのだ と、

あの時に 解ったよ〜な気がする。

私は ものすごい速さで 上空を飛んでいる…

その事は判るが… やたらにこの毛布籠の中は

静かで…心地がよい。ちっとも寒くはないし

暑くもない、そして 痛いとか 苦しいとかの

そのおっと以前は…ず〜っとずっと私は 痛くは

無かったが、悩んでいたよ〜な気もするが

それが 何の悩みだったのか…すっかり忘れ…

全く 覚えても いないのである。

ただただ かすかに記憶に残るのは…

いい歳をした陶太のくせに 本当に苦しときに

いつも《神さま〜☆》って云わずに…

《かあち〜ゃん☆》って 呼んでいた気がする。

かあちゃんなんて 何にもならんのに と

知っていながら …… ☆

神さまとか 仏さまって この上もなく尊く

最極の存在なんだろ〜けれど… やっぱり

かあちゃんも方が 良かったと 陶太は想った…

神さまは 尊敬するけれど… 怒るから駄目だ と。

毛布籠の編み穴からそっと覗いて見たら…

ものすごく美しい まるで壮大で巨大な球が

在った… ああ 地球だな と 陶太は 思った。

そして意外にも ちっともそれに驚かなかった…

美しい 美しい と 陶太は 一人言を繰り返したが

かといって 別に 珍しいとは 想いもせず…

そこを 前から知っていた よ〜な気がするので

あった。

この 良くわからない篭は 何処へ行くんだろう

などと思いもしなかったし、気にもならない…

網目から見える 大きな球も 思いの1つで グンと

拡大にもなって こんな愉しい事はないし…

ちっとも寂しくも無かった。

その大球を そこらじゅう くまなく 拡大して

興味のままに 遊んでいたら まるで菌みたいな

小さな生き物が? 無数に動いていて それがまた

様々に 蠢いて 陶太はそれを観ていて 飽きること

を知らなかった。

ちっともお腹が空かないし、眠くもない…

あれから3日たったのか、1ヶ月なのか

3年たったのか… 100年ほど過ぎたのか…

幸村陶太には その感覚が無くなっていた。

だだ、陶太は その球いものの表面で うごめく

その中に 自分も さっきまで居たよ〜〜な?

気もするが、よく分からない…

あの中で動いている 数え切れない 微点なものも

いつかは何処かへ 飛んで行くのだろ〜か。。。

陶太は思った、あの生き物って、どれがど〜なる

のかなんて 決まっていないんだ…と。

ただ… あんなに多い動く点々の中で…点々1つが

何をど〜したって どれかの点々が そして…

何割かが 早く消えたり 遅く消えたりするの

だな〜と 陶太はハッキリと覚った気がした。

あすこに 長らく居るのか しばらくなのかは…

その点々で決まっているのでは無い…と 思った

のであった。そして陶太は… ああこれって

運命では無いんだ…と、普通なんだと 感じた。

前編おわり…